介護保険サービスを利用する上で、ケアマネージャー(以下、ケアマネ)は中心的な役割を果たします。最初の頃は良い関係を築けていたとしても、合わないと感じた場合、ケアマネの変更を検討することもあるでしょう。
この記事では、ケアマネの変更が可能なのか、変更する際の流れや注意点について詳しく解説します。
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介護保険サービスを利用する上で、ケアマネージャー(以下、ケアマネ)は中心的な役割を果たします。最初の頃は良い関係を築けていたとしても、合わないと感じた場合、ケアマネの変更を検討することもあるでしょう。
この記事では、ケアマネの変更が可能なのか、変更する際の流れや注意点について詳しく解説します。
まず知っておくべきなのは、ケアマネの変更は法律上認められているということです。介護保険制度では、要介護者がケアマネやサービス事業者を自由に選択できる「自己選択」の原則があります。
現在のケアマネに不満がある場合や、別のケアマネに変えたいと思った場合は、いつでも変更可能です。費用もかかりません。
ただし、変更には一定の手続きが必要です。単にケアマネとの契約を解除するだけでなく、新しいケアマネとの契約や、サービス計画の見直しなども必要になります。
※施設サービス利用者の場合は、施設配置されたケアマネージャーが自動的に担当になり、利用者希望で変更することはできません。
ケアマネを変更したいと考える理由はさまざまですが、主なものとして以下のようなケースが挙げられます。
ケアマネはさまざまな分野から転職してきており、それぞれ得意分野が異なります。例えば、医療的なケアが必要な方には看護師出身のケアマネが適している場合がありますし、認知症の方には認知症ケアの専門知識を持つケアマネの方が良いこともあります。
筆者が以前働いていた職場では、看護師資格を保有したケアマネがいたため、医療依存度の高い要介護者を担当する場合が多かったです。このように、要介護者やご家族の状態に合わせた専門性を持つケアマネの選択は重要です。
要介護者の希望や状況をくみ取り、最適なケアプランを立てるのがケアマネの役目です。ところが中には、要介護者の声に耳を傾けず、一方的にプランを決めてしまうケアマネもいます。
例えば「施設入居を検討している」と伝えても、動きが鈍いことがあります。施設に移ると担当から外れ、ケアマネは報酬を受け取れなくなる可能性があるためです。また、近くのデイサービスに行きたいと希望しても、自社のデイサービスを勧められる場合もあります。
こうしたコミュニケーションのズレや対応の遅さを感じたら、ケアマネの変更を考えるタイミングといえるでしょう。
ケアマネの中には、同じ法人が運営する介護サービスばかり提案する人もいます。これは「囲い込み」と呼ばれ、本来は避けるべき行為です。ケアマネは要介護者の立場に立ち、複数の事業者から最適なサービスを提案する責任があります。
「選択肢が偏っている」と感じるときは、同じ法人で介護サービス事業所を運営していない独立系ケアマネへ変更することも検討してみましょう。
介護は状況が急変しやすいので、ケアマネには迅速な対応が欠かせません。それにもかかわらず、緊急時に連絡が取れなかったり、返信が遅かったり、約束の時間を守らないケアマネもいます。
筆者が勤務していた居宅介護支援事業所では、特定事業所加算を取得していました。そのため、ケアマネが交代で緊急用の携帯電話を持ち、夜間や土日など事務所が閉まっている時間帯でも連絡が取れる体制を整えていました。
要介護者やご家族にも「事務所が休みのときはこの番号に電話してください」と伝え、いつでも相談できるようにしていたのです。
そのため、新しいケアマネを探すときは、次の点を確認しましょう。
このようなチェックを行い、連絡がつきにくい不安を解消していきましょう。
ケアマネを変更する際には、以下のポイントに注意しましょう。
現在のケアマネに変更の理由をはっきりと伝えましょう。理由を伝えることで、場合によっては改善される可能性もあります。また、円満に関係を終えれば、新旧のケアマネ間での情報共有もスムーズに行われます。
ただし、あまりにも強い不満や不信感がある場合は、居宅介護支援事業所の管理者や地域包括支援センターに相談した上で伝えるのがよいでしょう。
筆者が聞いたり経験したりした中では、ケアマネ交代には以下のような理由がありました。
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理由はさまざまですが、ケアマネがもう少し配慮していれば、変更せずに済んだと感じるケースもありました。
ケアマネを変更すると、現在利用しているサービスが継続できなくなる可能性があります。
たとえば小規模多機能型居宅介護を利用している要介護者は、その事業所に所属するケアマネしか担当になれません。また、要支援1・2の人については、住んでいる地区の地域包括支援センターの職員がケアマネになるため、ほかに替えられない仕組みになっています。
新しいケアマネを選ぶ際、事前に相性が良いかどうかを完全に判断するのは難しいものです。優秀と評判のケアマネでも、実際に関わってみると「思っていたのと違う」と感じることもあります。
このリスクを減らすために、契約前に一度面談の機会を設けましょう。直接会って話をすると、コミュニケーションの取りやすさや考え方を確認できます。
地域包括支援センターでは、地域のケアマネ情報を豊富に持っているので、「こんな特徴のケアマネを探している」と相談してみるのも効果的です。
ケアマネの変更には、いくつかのデメリットもあります。例えば、以下の内容が考えられます。
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これらのデメリットと、変更によるメリットを比較検討してみましょう。
ケアマネを変更する際の具体的な流れは以下のとおりです。
まずは、ケアマネを変更したい理由を自分自身でしっかりと整理することから始めましょう。感情的な反応(「なんとなく合わない」「話しづらい」など)だけでなく、具体的な事例や状況を書き出してみるとよいでしょう。
例えば以下のような内容です。
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このように具体的に整理すると、単なる不満だけでなく、どのような点を改善したいのかが明確になります。この改善点が新しいケアマネに求める条件となり、より適切なケアマネ選びにつながります。
ただし、お互いに話し合えば解決できる余地があるなら、新しいケアマネを探す前に、まず現担当のケアマネとじっくり話し合いが大切です。
変更理由が明確になったら、新しいケアマネを探します。地域包括支援センターに相談したり、インターネットで検索したり、知人の紹介を受けたりする方法があります。可能であれば複数の候補を挙げ、実際に会って話を聞くことをおすすめします。
新しいケアマネを選ぶ際のポイントとしては、以下の項目があります。
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たとえば、要介護者が人工透析をしているなら、医療知識が豊富な看護師などの資格をもったケアマネがおすすめです。
新しいケアマネが決まったら、まずは現任ケアマネへ変更の意思を伝える必要があります。もっとも望ましいのは、ご家族が直接ケアマネに事情を説明し、納得してもらった上で円満に引き継ぐことです。しかし、直接伝えるのは難しい場合もあるでしょう。
伝え方には次の3つの方法があります。
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以前、筆者がご家族より「ケアマネを替えたいので新しい担当になってほしい。でも今のケアマネには言いづらいから、代わりに伝えてほしい」と頼まれ、ケアマネに電話して状況を説明したことがあります。ただ、事情を説明しても納得を得られず「利用者を取られた」と感情的に受け取られた経験がありました。
ケアマネ変更による混乱がなく引き継ぎを円滑に行えれば、要介護者がこれまで通り安心してサービスを受けられる体制が整えられるでしょう。
旧ケアマネとの契約解除が済んだら、新しいケアマネと契約を交わします。この際、以前のケアプランや医療情報、生活状況などの情報が新しいケアマネに引き継がれるように手配してもらいましょう。
新しいケアマネには、自分の希望や状況を改めて詳しく伝え、一緒に新しいケアプランを作ることが大切です。
ケアマネを変更する際には、以下のような注意点があります。
ケアマネを変更する際には、新たにケアマネ(正確には居宅介護支援事業所)と契約を結び直す必要があります。契約書の内容をしっかりと確認し、疑問点があれば質問しましょう。
また、新しいケアプランの作成にも時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールで変更を進めることをおすすめします。
新しいケアマネとは、信頼関係を一から構築する必要があります。これには時間と労力が必要と理解しておきましょう。初めのうちは、こまめにコミュニケーションを取り、お互いの考えや希望の共有が大切です。
旧ケアマネから新しいケアマネへは基本情報やアセスメント、居宅サービス計画書などの書類がFAXやメールで送られます。しかし、生活習慣や好み、ご家族との関係といった細かな情報まで完璧に引き継がれるわけではありません。
細かい生活状況や、日々のちょっとしたこだわりなどは書類に反映されにくく、必要最低限しか記載されていないケースも少なくないのが実情です。
そのため、新しいケアマネと初めて話す際には、ご本人やご家族が直接、現在の状況や希望を詳しく伝えることが不可欠です。あらかじめ希望や生活のリズム、医療情報をまとめたメモを用意しておくとスムーズに説明でき、安心して新しいケアプランづくりに協力できます。
ケアマネの変更は、介護保険制度で認められた要介護者の権利です。自分やご家族にとって最適なケアを受けるために、必要に応じて変更を検討しましょう。
変更の際には、現在のケアマネとの関係を丁寧に終え、新しいケアマネとの関係の構築が大切です。変更によるメリットとデメリットをしっかりと比較検討し、本当に変更が必要かどうかの見極めも重要です。
最終的には、要介護者やご家族が安心して介護サービスを受けられる環境を整えることが目標になります。ケアマネ変更を考える際は、この点を念頭に置いて判断しましょう。もし判断に迷う場合は、地域包括支援センターなどの中立的な機関への相談をおすすめします。
「マイナビあなたの介護」では、介護や医療の現場をよく知る専門家が、在宅介護や施設探し、認知症ケアなど幅広い相談に無料で対応しています。
電話やLINEで気軽に相談でき、専門家が親身にサポートしてくれます。「誰にも話せず悩んでいる」という方も、まずは気軽に「マイナビあなたの介護」に相談してみませんか?
参考
サービス利用までの流れ|厚生労働省
ケアマネを変更することはできますか?|生駒市
医療・介護ライター
長谷部宏依
医療・介護ライター
長谷部宏依
ケアマネ20年。介護施設や在宅で多くの困難事例を支援してきた現場発の医療・介護ライター。
ケアマネ20年。介護施設や在宅で多くの困難事例を支援してきた現場発の医療・介護ライター。
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
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