Q&A
質問
今は東京に住んでいるのですが、地元に介護を考え始めた70代の母がいます。
このまま遠距離介護を続けるか、今住んでいる近くに呼び寄せて一緒に住むか、介護施設へ入居するか悩んでいます。どちらがいいのでしょうか?教えてください。
回答
遠距離介護と呼び寄せどちらもそれぞれメリット・デメリットがあります。遠距離介護ではそれぞれを考慮した上で、どちらが良いか選ぶことが大切です。介護が必要なご家族の健康状態も考慮しながら、適切な介護サービスを上手に活用し、家族みんなが納得して暮らし方を検討してみてください。
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遠距離介護とは

遠距離介護とは、親と子どもが離れた場所に暮らしており、介護が必要となった親を、子どもが通いで介護することです。
2022年に厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」によると、別々に暮らす家族(※)から主に介護を受けている人の割合は、年々減少しています(2019年13.6%、2022年11.8%)。
一方で、介護施設で介護を受けている人や、居宅サービスを利用しながら介護を受けている人の割合は増加しています(2019年12.1%、2022年15.7%)。
(参考:2022年 国民生活基礎調査の概要|厚生労働省)
(※)上記調査の「別々に暮らす家族」には、遠方に住んでいる家族以外も含まれるため、厳密に遠距離介護の割合を示すものではありません。
遠距離介護のメリット・デメリット

遠距離介護のメリット・デメリット |
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メリット | - 介護者にとって仕事や生活との両立がしやすい
- 親が住み慣れた場所で暮らせる
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デメリット | |
遠距離介護の場合、自身の生活と介護とのメリハリがつけやすく、「週末だけ通いで介護する」といった形であれば、仕事とも両立しやすいといえます。適度な距離感を保てることで、介護によるストレスが溜まりにくく、親にとっても、住み慣れた自宅や地域を離れる必要がないため、ストレスが少なく済みます。
その一方で、遠距離介護の場合、緊急時に駆けつけることが難しいことも考えられます。また、距離が離れているほど交通費がかさむため、費用の負担が大きい場合もあります。また、一人暮らしを続ける親が、より安心して暮らせるように、住宅改修やリフォームの工事費用が必要な場合は、さらに費用負担が大きくなるでしょう。
呼び寄せを検討したい5つのタイミング

さまざまな理由やタイミングによって、遠距離介護を続けることが難しくなった場合、介護者の自宅や自宅周辺に親を呼び寄せることを検討する必要があるかもしれません。親を呼び寄せる場合は、「同居」「施設入所」「近居」の3つのパターンがあります。
ここでは、呼び寄せを検討したいタイミングを5つ紹介します。
介護者が、仕事・生活との両立が困難になったとき
遠距離介護にて親をサポートしていたものの、通う頻度が高くなってくると、介護者自身の仕事や生活との両立がしづらくなることがあります。そのような場合は、呼び寄せを検討するタイミングです。
老人ホームや特別養護老人ホームへの入居を視野に入れつつ、家族の協力や在宅サービスを受けながら同居や近居での介護を検討するとよいでしょう。
親が「要介護4」になったとき
親の身体機能や認知機能が低下したり、持病が悪化したりすると、介護度が上がることがあります。介護度が上がるにつれて必要な介護の頻度や時間が増え、遠距離介護では限界を感じることが多くなるでしょう。自力で立つ・座る・歩くといった動作が難しい状態とされる「要介護4」になったら、呼び寄せを検討した方がよいでしょう。
呼び寄せる場合、介護者の身体的・精神的・経済的な負担を軽減するために、特別養護老人ホームへの入居を検討するのも一つの方法です。特別養護老人ホームは入居待ちが多い傾向にありますが、介護の必要性が高い人から入居できます。
親が利用する適切な施設が見つからないとき
介護施設の数や充実度は、地域によっても異なります。親が暮らしている地域では、適切な施設が見つけられないときも、呼び寄せを検討するタイミングです。一旦、親を呼び寄せて、同居で介護しながら、在宅居宅サービスや入居施設を探すのも一つの方法です。
認知症により生活に支障が出てきたとき
高齢の親が1人暮らしをしている場合、料理後の火の始末や暖房器具の消し忘れなどを心配に思うこともあるでしょう。特に認知症を発症している場合、料理中に鍋を火にかけていたことを忘れて焦がしてしまったり、近隣のスーパーからの帰り道がわからなくなったりするケースも多くあります。
このように認知症が進行するにつれて生活に不安を感じる点が増えてきた場合も、呼び寄せを検討しましょう。
年金や貯蓄では経済的にまかなえないとき
親に通院や介護などが必要になり、費用面の負担が増えていくことで親の年金や貯蓄でのやりくりが難しくなることもあります。遠距離介護を続けることが経済的に困難であると判断した場合は、呼び寄せて同居を検討するのも一つの方法です。
呼び寄せのメリット・デメリット

呼び寄せ介護のメリット・デメリット |
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メリット | - 緊急時にも対応しやすく安心感がある
- 日々の健康状態を確認できる
- 通いの費用がかからなくなる
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デメリット | - 親にとって住み慣れた自宅や地域を離れることでストレスがかかる
- 本人・介護者の生活リズムが変化する
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呼び寄せ介護の場合、いつでも顔を見られる安心感や、困ったことや頼みごとなどがあればすぐに対応できることは精神的にもメリットといえるでしょう。また、会う頻度が増えることで、親の体調の変化に気付きやすくなり、適切なタイミングで病院へ連れて行くといった対処が可能になります。また、遠方に住む親の元に帰省するための交通費がかからなくなるのは経済的に嬉しいポイントです。
一方で、呼び寄せのデメリットもあります。
親にとって、住み慣れた自宅・地域を離れることで、親しい人と疎遠になったり、新しい環境に馴染めなかったりする可能性があります。環境の変化は精神的にストレスとなり、場合によっては認知症の症状を進行させるリスクもあります。
また、同居や近居で介護をする場合、介護の時間が増える傾向にあるため、介護者にとっては生活リズムの変化が大きく、仕事との両立が難しくなったり、親との関係性の変化によって衝突することもあるでしょう。
親を呼び寄せる際に必要な手続き

親を呼び寄せる際に必要となる手続きを紹介します。
住民票を移す
親を呼び寄せる場合は、住民票の移動が必要です。介護サービスのうち「地域密着型サービス」は、その地域に住民票がある人のみが利用できるため注意しましょう。要介護認定を引越し先に引継ぐには、転出する地域の役所で「介護保険受給資格証明書」を受け取り、引っ越し先の役所でに提出する必要があります。必要書類を事前に確認し、用意しておきましょう。
住宅改修やリフォームが必要かどうか検討する
段差でつまずきやすい、膝に痛みがあるなどの場合は、階段にスロープを付ける、廊下に手すりをつけるなどの住宅改修やリフォームを検討しましょう。住宅改修には介護保険の適用が可能です。また、市区町村によっては住宅改修の助成金が出ることもあります。親のためだけでなく、介護者自身にとっても、介護しやすい環境を整えることで負担軽減につながります。
周辺施設をリサーチしておく
今後生活することになる場所について、以下のような周辺施設を調べておくことも大切です。
地域包括支援センターやデイサービス等の居宅サービス事業所、地元の人が集まるコミュニティスペースや喫茶店など、地域の方と交流でき、社会とのつながりを作れる場所や、内科や耳鼻科、皮膚科など地域のかかりつけ医師が見つかる医療機関などを調べておくことで、親本人はもちろん介護者の不安を軽減できます。
遠距離介護か、呼び寄せかを決めるポイント

遠距離介護か、呼び寄せかを決めるポイントを紹介します。
親にどの程度の介護が必要か
高齢者の中には環境の変化に対応する能力が低い人もおり、ストレスから心身ともに不調が起こしやすい人も少なくありません。親の自立度や要介護度にあわせて最適な方法を検討することが大切です。
「呼び寄せ」や「施設入所」という選択肢は、目の届く範囲で親の介護ができるため、介護者にとって安心しやすいでしょう。親の住む地域に適切な介護サービスや施設がない場合や、介護者が住む地域のほうが施設や在宅サービスが充実している場合も、呼び寄せを選択肢に入れて検討してみましょう。
親の意思はどうか
親が「住み慣れた地域で暮らしたい」と強く望んでいる場合は、できるだけその意思を尊重することが大切です。また、要介護度にもよりますが、遠距離介護の方が、親と介護者の適切な距離感を確保でき、ストレスなく介護できるケースもあります。
しかし、一人暮らしでの安全確保や生活維持が困難な場合は、親を説得して呼び寄せることも選択肢に入れる必要があります。お互いに納得できる方法を選びましょう。
家族がどれだけ介護に関われるか
介護を担う中心人物だけで抱え込まず、分担や協力体制を築くことが、継続可能な介護には欠かせません。遠距離介護を続けるか、それとも親を近くに呼び寄せるかを判断するには、介護者の兄弟など周りの家族が、どの程度介護に関われるかを明確にすることが大きなポイントになります。
遠距離介護を続ける場合は、定期的に帰省できる時間・費用があるかを家族全員で確認しましょう。遠距離介護による精神的・身体的・経済的な負担が大きい場合は、呼び寄せも検討しますが、呼び寄せの場合は、介護者自身が子育てや仕事との両立が可能かどうかも考える必要があります。
家族全員で話し合って、現実的かつ柔軟な介護の形を見つけていきましょう。
介護にどれだけの金額をかけられるか
親の介護度が上がるにつれて、必要な介護も多くなります。居宅サービス利用や施設入所には費用がかかり、介護保険内で利用できるサービスだけでなく、介護保険適用外のサービスが必要になることもあります。
そのため、親の年金や貯蓄で介護を続けられるかどうかを確認することが大切です。場合によっては、呼び寄せて同居した方が、生活コストを削減して金銭援助しなければならならなくなるケースもあります。しかし、呼び寄せて介護を行う場合、介護時間の増大により、介護者の仕事との両立が困難になる可能性や、収入減の可能性もあるため、総合的に判断することが大切です。
まとめ:家族みんなが納得して暮らせる方法を選ぼう

遠距離介護、呼び寄せのそれぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、自分たちに合った介護方法を選ぶことが大切です。家族のなかの誰か1人が責任や負担を背負うのではなく、適切な介護サービスを上手く活用しながら家族みんなが納得して暮らせるように環境を整えましょう。
介護が必要になる親自身はもちろん、家族全員が納得して介護に向き合えるように、暮らし方を検討してみてはいかがでしょうか。
「マイナビあなたの介護」では、介護や医療の現場をよく知る専門家が、在宅介護や施設探し、認知症ケアなど幅広い相談に無料で対応しています。
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参考
2022年 国民生活基礎調査の概要|厚生労働省
著者・監修老人保健施設の支援相談員。介護職員としての経験もあり、実体験をまじえた記事を執筆している。
老人保健施設の支援相談員。介護職員としての経験もあり、実体験をまじえた記事を執筆している。
プロフィールを見る 監修
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
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