Q&A
質問
施設への入所に前向きになってもらうために、どのように説得すればよいのでしょうか。
現在、在宅で親の介護をしています。最近、身体面や精神面での負担が大きくなり、施設入所を検討したいと思っています。
しかし、本人にそのことを提案すると、「施設には入所したくない」と言って話を聞いてくれません。
回答
まず、どうして施設に入居入所したくないのか、理由を教えてもらいましょう。
施設への入居を選択肢として考えていても、ご本人から「施設には入りたくない」と拒否されてしまうと、どう進めてよいか悩まれるのも無理はありません。
まずは、「どうして施設は嫌なのか?」という理由を、日を分けても良いので丁寧に聞いてみましょう。
ご本人が感じているのは、施設入所に対する不安や心配など、ネガティブな感情かもしれませんが、それを否定せず、話をさえぎらず、「うんうん、そう思うよね」と共感しながら本人の想いを傾聴する姿勢が大切です。
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親が入所したくないと思う主な5つの理由

親がなぜ施設入所を嫌がるのか、その理由を考えておくことで、解決策を提案しやすくなるでしょう。
ここでは、よくある5つの理由を紹介します。
長く慣れ親しんだ自宅を離れたくない
施設入所を拒否する理由として挙げられることが多いのが、長く住み慣れている自宅を離れたくないという理由です。自宅での暮らしに慣れていることはもちろん、自宅にはたくさんの思い出があり、離れたくないと考える方は少なくありません。
家族以外の他人に世話をされたくない
施設入所をして、家族以外の他人に世話をされたくないというのも、親が入所したくないと思う理由の1つです。
以前は「親の介護は家族がするもの」というイメージや認識が強かったことから、今でも「家族以外の他人に迷惑をかけたくない」「排せつ介助や入浴などを他人にしてもらうことに抵抗がある」などと感じる人は少なくありません。
施設での共同生活に不安を感じている
知らない人たちと共同生活を送ることや、新しい環境になじめるかどうか不安に感じ、入所を拒んでいる場合もあります。
環境の変化は、誰でも不安に思うことですが、特に、年齢を重ねると身の回りの変化に順応しにくくなる人もいるため、余計に心配が大きくなることもあるでしょう。
介護施設への入所の必要性を認めたくない
自分が介護施設に入所する必要があることを、認めたくない場合も考えられます。「まだまだ自分のことは自分でできる」と思っており、介護が必要な事実を認めることへの抵抗感がある場合は、施設入所に前向きになれないかもしれません。
介護施設に対するイメージが良くない
介護施設と聞くと、どんよりと暗く活気のないイメージを持つ方も多くいます。入所することで、家族に見捨てられるのではという不安や心配がある方もいるでしょう。また、「自分が今までやれていたことができなくなるのではないか」という不安を抱く方もいます。

親の施設入所を説得するポイント

親に施設入所を説得する際のポイントを4つ紹介します。
焦らず本人の意向に寄り添う
親を説得する際には、焦らずに本人の意向に寄り添うことが大切です。
とはいえ、入院していた病院の退院が迫っており期間に余裕がない場合や、認知症の進行により徘徊や火の不始末、夜間の不眠・幻覚が頻繁にある場合などは、早めに施設入所を検討する必要があります。しかし、そのような場合でも、できるだけ本人の意思や考えを傾聴して寄り添い、心配で不安な気持ちを理解するようにしましょう。
また、本人が感じている不安や心配など少しずつ軽減できるよう、自身や家族の想いや本人を心配している気持ちを伝えることも大切です。
専門家に相談する
家族以外の第三者や担当のケアマネージャーやかかりつけ医など、専門家に相談するのも一つの方法です。専門家などの第三者からの説得説明だと、家族からの説得よりも聞き入れやすい場合があります。
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施設に対するマイナスイメージを取り除く
施設に対するマイナスイメージをなくすには、親の好みや生活スタイルに合った施設を事前にピックアップし、パンフレットや写真などで一緒に確認してみましょう 。興味を持ちやすくなります。
家具の持ち込みや、趣味・レクリエーションが充実している施設もあり、そうした点を強調すると安心感につながるでしょう。
親が施設に興味を持ったら、 施設見学に行くのもおすすめです。実際に施設の様子や雰囲気がわかり、施設での暮らしをより具体的にイメージできるでしょう。
▶ 老人ホーム見学でチェックするポイントとは?事前準備や心構えなどを紹介
ショートステイを利用してみる
ショートステイを利用して、施設での暮らしを体験してみるのも一つの方法です。ショートステイの利用は、ホームページやパンフレットを見たり、施設見学に行ったりして施設に対する興味を持ってからの利用がおすすめです。施設での生活を実際に体験することで、実際の様子や雰囲気を知れるため、安心感につながる場合があります。
徐々にショートステイ利用の日数や回数を増やしていき、施設での生活に慣れながら入所準備を進めると良いでしょう。
施設に入りたがらない親を説得できた事例

実際に親を説得できた事例を3つ紹介します。
事例1:介護施設に悪いイメージがあったケース
【基本情報】
氏名:Oさん
年齢:78歳
性別:男性
介護度:要介護3
環境:数年前に妻が他界し、現在は戸建てに独居
既往歴:脳梗塞、左半身麻痺、骨粗しょう症
現在利用中の介護サービス:訪問介護・夜間対応型訪問介護
キーパーソン:隣町に住む次女
【状況】
訪問介護サービスを活用しながら在宅での暮らしを継続してきたOさん。しかし、脳梗塞からの左半身麻痺により、移動や食事・排せつの際にも不自由さを感じ、独居での生活を継続することに不安に感じるようになってきました。隣町に住む次女はキャリアアップ思考で、仕事を休職・退職することは考えられません。
親本人も不安に思っているのなら施設入所をしてほしいものの、本人が施設に対して良いイメージを持っておらずなかなか施設入所に踏み切れずにいました。
【アプローチ方法】
- ホームページやパンフレットを見て気になる施設を一緒に選ぶ
- 入所候補施設の職員に施設の案内をしてもらう
まず「施設」に対するマイナスイメージや不安を払拭することからアプローチしていきました。
よく話を聞いていくと「施設は汚そう」「食事も美味しくなさそう」「職員はちゃんと対応してくれるのか」などが気になっている様子でした。そこで、親本人が気になる点をメモし、次女とともに施設見学に行きました。
見学当日はケアマネージャーが施設内を案内してくれました。ちょうど昼食時であったため、職員の配慮により実際に食事を食べて味を確認できました。「温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食事を召し上がっていただく」ことを大切にしている施設であり、Oさんの口に合った様子でした。また、月に1度バイキングやお楽しみ食も実施されることが職員を通じて説明され、Oさんがこの施設への入所を前向きに考えるきっかけとなりました。
実際に施設の中を見学して、汚いイメージや職員対応の不安も軽減されました。
事例2:自分には介護は必要ないと思っていたケース
【基本情報】
氏名:Aさん
年齢:84歳
性別:女性
介護度:要介護2
住環境:84歳夫と同居
既往歴:認知症・変形性膝関節症
現在利用中の介護サービス:デイサービス(週2回)
キーパーソン:県外に住む長男
【状況】
認知症の進行により、ここ数週間のうちに、スーパーからの帰り道がわからなくなる、料理中に鍋を火にかけていたことを忘れて焦がしてしまうといったことが起きるようになりました。夫が同居していますが、家事はAさんにまかせきり。また、夫も筋力低下や物忘れがみられ、Aさんの介護に身体的な限界を感じていました。
Aさんの長男は、妻と小学生の子供2人で県外に住んでおり、同居は難しいため、Aさんに施設への入所を勧めています。しかし、Aさんは今までずっと専業主婦として家事や育児をほぼ1人で行ってきたため、「身の回りのことは全部自分でできる」という考え方が根付いており、施設入所を嫌がっていました。
【アプローチ方法】
- Aさんが一番頼りにしている人に説得してもらう
- 利用しているデイサービスの職員から説得してもらう
Aさんは、自分に介護や施設入所の必要性を認めたくなく、入所を嫌がっていました。しかし、Aさんは月に1度通院している整形外科の医師には信頼感を抱いており、膝の痛みについてだけでなく、自身のことや世間話をよく話していました。そこで、Aさんが信頼している整形外科の医師から、施設入所の必要性を伝えてもらったことで、施設入所を前向きに考えてくれるようになりました。
また、週に2回利用しているデイサービスの職員からも、施設入所した方が家族も安心できることを伝えてもらい、Aさんも納得。利用しているデイサービスと同系列のユニット型特別養護老人ホームの施設入所を検討することになりました。
事例3:家族とのつながりが薄れることが不安なケース
【基本情報】
氏名:Yさん
年齢:75歳
性別:女性
介護度:要介護2
環境:夫は数年前に他界、市営住宅に独居
既往歴:認知症
現在利用中の介護サービス:デイサービス(週3回)
キーパーソン:近所に住む長女
【状況】
Yさんは、週に3回のデイサービス利用をしていますが、自宅での生活に孤独感や不安感が募り、認知症も進行してきたことで身の周りのことも徐々に自分1人で行うことが難しく感じるようになってきました。
近所に住んでいる長女が、孫と一緒に週2~3回程度顔を見せに自宅を訪問してくれるのが日々の楽しみですが、「施設に入所したら孫に会えなくなるのではないか」「家族とのつながりが薄れるのではないか」という不安が大きく、施設入所を嫌がっていました。
【アプローチ方法】
- 話を傾聴し、想いに寄り添う
- 連絡や面会の頻度などを決めておく
近所に住む長女と、担当ケアマネージャーが、Yさんの不安や本音を一緒に聞きました。孫に会えなくなる不安や家族とのつながりが薄れる心配が大きかったため、入所後も連絡が取れるよう、スマートフォンやタブレットでのビデオ通話ができる体制を整えられる施設があることを伝えました。
また、家族とのつながりが薄れないよう、面会に行く頻度を本人と相談して決めました。また、長女から「入所を勧めるのは、Yさんのことが大切で心配だから」という気持ちや想いを本人にしっかり伝えたところ、不安が軽減されたようで、施設入所を前向きに考えてくれるようになりました。
まとめ :お互いに納得した状態で入所準備を進めましょう
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親の施設入所の説得には、できるだけ本人の考えや気持ちを否定せず傾聴し、寄り添うことが大切です。施設入所を納得してもらう際には説得する際には、家族以外の第三者や担当のケアマネージャー、かかりつけ医など、専門家に相談するのも1つの方法です。また、施設へのマイナスイメージを軽減させるためには施設見学も効果があります。
本人の不安や心配をできるだけ軽減し、施設入所を前向きに考えられるようアプローチしていきましょう。
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監修
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
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