家族を介護することになった場合、介護と仕事を両立できるのか不安に感じたことはありませんか。あるいは、現在すでに家族を介護していて、このまま介護と仕事を続けていけるか心配している方もいるでしょう。
今回は、介護と仕事を両立するための方法や、活用できる制度についてわかりやすく解説します。働きながら介護をする上でのポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
仕事と介護の両立を図る
介護の基礎知識
介護と仕事の両立は可能?両立のポイントや活用したい制度を紹介記事をシェアする
家族を介護することになった場合、介護と仕事を両立できるのか不安に感じたことはありませんか。あるいは、現在すでに家族を介護していて、このまま介護と仕事を続けていけるか心配している方もいるでしょう。
今回は、介護と仕事を両立するための方法や、活用できる制度についてわかりやすく解説します。働きながら介護をする上でのポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
急速に高齢化が進む日本では、介護をしながら仕事を続けている人はどのくらいいるのでしょうか。
総務省が公表したデータによると、介護をしている人は約629万人おり、このうち介護と仕事を両立している人は約365万人で、全体の約6割に相当します(※1)。
一方で、介護と仕事の両立が難しく、年間約10万人が介護離職をしています。特に、55~59歳で介護離職をする人の割合が最も多く(※2)、管理職など責任のあるポジションに就いている人や、責任の重い仕事に従事する人も少なくありません。
※1 総務省「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」
※2 厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
介護離職をすると、介護に専念できる一方で、収入の減少をはじめとするさまざまなデメリットがあります。離職を決断する前に、どのようなデメリットがあるのか認識しておきましょう。
■介護離職のデメリット
介護離職によるデメリットとして、まず考えられるのが収入の減少です。仕事を辞めることにより、毎月の収入源が断たれてしまいます。生活費や介護費に家族の年金や自身の預貯金を使う人が多く、介護に必要な消耗品や医療に予想以上にお金がかかってしまうため、資金不足に陥る人も少なくありません。
さらに、介護離職は将来受け取る退職金や年金の額にも影響を及ぼすおそれがあり、老後の人生設計が大きく変わる可能性があります。
介護が一段落した後の再就職が難しいことも、介護離職のデメリットのひとつです。介護が落ち着いたり、被介護者が亡くなったりすると、再就職を検討する人も多いでしょう。しかし、介護離職者の再就職率は約3割にとどまっており、年齢が高くなるほどその割合は低下します。実際、介護離職者のうち、40代で再就職した人の割合は53%、50代で38%、60代で18%です。
また、離職期間が長期化すると、前職が正社員であっても再就職後は非正規雇用に転じるケースも多く、離職前の収入に戻すのは難しい可能性があります。
介護離職をすれば介護に専念できるものの、その結果として肉体的・精神的な負担が増加することも介護離職のデメリットです。被介護者の移動や着替え、入浴、排泄のサポートなどは、介護者にとって大きな肉体的負担となり、ひざや腰を痛めてしまうことがあります。
また、目を離せない被介護者の場合、精神的にも大きな負担がかかることが想定されます。介護を続けるうちに、社会から孤立しているような感覚に陥ることも少なくありません。さらに、自分の時間を持てない状態が長く続くと、生活に楽しみを見い出せなくなり、ストレスが溜まる原因になります。
介護離職には多くのデメリットがあるため、できる限り介護と仕事を両立できる方法を見つけたいものです。働きながら介護をするための方法としては、主に次の2つがあります。
現状の働き方を見直すことで、介護と仕事を両立できるかもしれません。例えば、リモートワークや勤務先の両立支援制度などを利用して勤務時間を柔軟にし、介護にあてる時間を確保することができます。
また、正社員から派遣社員になるのもひとつの手段です。派遣社員は労働時間が明確な場合が多く、残業や休日出勤、出張などが発生する可能性が低くなるので、介護の時間を確保しやすくなります。さらに、スキルがある人はフリーランスに転身することで、時間の融通がきく働き方に切り替えるという方法もあります。
介護と仕事を両立するためには、介護サービスの利用もおすすめです。要介護認定を受けることで、さまざまな介護サービスを利用できるようになります。自宅で利用するサービスや、日帰り・宿泊で施設を利用できるサービス、施設に入居して受けるサービスなど、介護サービスの種類はさまざまです。
介護サービスの最大のメリットは、家族の負担が軽減されることです。訪問介護やデイサービスを利用すれば、専門のスタッフによる食事・排泄・入浴などの介護や、掃除や洗濯などの生活支援、身体機能の訓練などを受けられます。
介護サービスの種類と要介護認定については、下記の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
▶介護サービスとは?種類の一覧やサービス内容を紹介
▶ 要介護認定とは?認定の流れと7段階の要介護度について解説
ここからは、介護と仕事の両立に役立つ制度について解説します。制度を利用すれば離職せずに介護を続けられる可能性もありますので、代表的な制度を把握しておきましょう。
介護休業制度とは、介護を必要とする家族がいる労働者が勤務先に申し出ることで、一定の日数を休業できる制度です。具体的には、介護が必要な家族1人につき通算93日まで、最大3回に分けて休業を取得することが可能です。
また、要件を満たせば、休業中に介護休業給付金を受け取ることもできます。給付金の額は、休業前の賃金の67%です。
さらに、介護休業制度を定める育児・介護休業法の改正が2024年5月に可決され、2025年4月から施行される予定です。
この改正により、介護を行う労働者がリモートワークを選択できるように、事業主に努力義務が課されることや、現行法では介護休業の取得対象外となっていた労働者(勤続6ヵ月未満、週の所定労働時間が2日以下、半日単位での休業が難しいとされる業務に従事している労働者)も、介護休業を取得できるようになります。この改正で、現行の制度よりも介護と仕事の両立がしやすくなることが期待されています。
介護休暇制度とは、介護休業や年次有給休暇とは別に、介護を理由として休暇を取得できる制度です。介護が必要な家族1人につき1年度に最大5日まで、対象となる家族が2人以上いる場合は1年度に最大10日まで、1日単位または時間単位で休暇を取得することができます。
前述の介護休業制度ではまとまった日数の休業を取得できるのに対して、介護休暇制度は必要に応じてその都度申し出て休暇を取得する点が大きな違いです。
介護を受ける人の体調や状況は日によって変わることがあるため、介護に必要な時間は常に一定ではありません。介護休暇制度を活用することで、介護に必要な時間を柔軟に確保しやすくなり、仕事との両立がしやすくなるでしょう。
事業主は労働者が家族を介護することになった場合、下記のいずれかの制度を利用可能にしておくことが義務付けられています。
<事業主に実施が義務付けられている制度>
これらの制度は、介護が必要な家族1人につき3年以上の間で2回以上の利用が可能です。勤務先の就業規定などを確認するか、人事部などに問い合わせて利用可能な制度を確認しておきましょう。
介護と仕事を両立するためには、介護施設を利用することもひとつの方法です。介護は、家族にとって予想以上に負担になります。現時点では家族だけで介護を続けられると思えても、介護が長期化することで負担が大きくなる可能性があります。
介護施設を利用することで、介護資格を持つスタッフからのサポートを受けられるため、介護を担う家族の負担が軽減されるだけでなく、介護を受ける人にとっても安心感があります。介護施設の利用には費用がかかりますが、将来的に介護離職せざるをえなくなるケースと比較すれば、経済的なリスクを抑えられる可能性が高いでしょう。早い段階から介護施設の利用を検討し、情報収集を進めておくことが重要です。
なお、介護施設には日帰りで通うデイケアやデイサービスのほか、施設に入所して生活する介護老人福祉施設や介護老人保健施設など、さまざまなものがあります。下記の記事で主な介護施設を一覧でご紹介していますので、併せてご覧ください。
介護に携わる家族とよく話し合い、役割分担を決めておくことも大切なポイントのひとつです。例えば、「手が空いている人が介護をする」といった曖昧な役割分担にすると、結果的に特定の人に負担が偏ってしまう可能性があります。
役割分担を決める際には、住んでいる場所や仕事の忙しさ、それぞれの家庭環境などを考慮し、現実的な分担を考えることが大切です。近所に住んでいる家族や独身の家族に負担が集中しないよう考慮しながら、介護を担当する曜日や時間帯、訪問の頻度などを具体的に話し合いましょう。
家族の介護が必要になりそうな場合、あらかじめ勤務先に相談しておくことも重要です。各種制度を利用する際、人事担当者に早めに相談しておくことで状況を理解してもらいやすくなり、スムーズに申請手続きが進む可能性があります。また、日頃から上司や同僚に家族の状況を共有しておくことで、周囲からの理解を得やすくなります。
家族の介護は誰にでも起こりうる問題ですので、職場で「お互いさま」という意識を育むことは、組織全体にとって有意義です。勤務先としても、早めに相談を受けることで勤務形態や人員配置の調整がしやすくなります。家族の介護が必要になってから突然申し出るのではなく、早めに相談しておくことが大切です。
意識的に自分の時間を確保し、リラックスできる時間を作ることも大切です。介護と仕事を両立すると、自分の時間はどうしても減ってしまいます。プライベートの時間をすべて介護に費やしてしまうと、息抜きができず、精神的・肉体的に疲れやすくなってしまいます。1週間のうち数日や数時間でも、趣味や楽しみに使う時間を確保し、介護や仕事から解放される時間を持ちましょう。
介護と仕事を両立するのは決して簡単ではありませんが、介護離職によって生じるリスクと比較すると、仕事を続けながら介護に携わるほうが、経済的・精神的に負担が少ない場合がほとんどです。必要に応じて各種支援制度や介護サービスを活用することで、無理なく長期的に介護を続けられる方法を探すことをおすすめします。
介護施設の利用を検討している場合は、信頼できる情報源にあたることが大切です。マイナビの「マイナビあなたの介護」は、AI診断や専門家への介護相談ができるといった特徴を備えた検索サービスです。
介護サービスを探す際には、ぜひ「マイナビあなたの介護」をご活用ください。
参考URL
総務省「令和4年就業構造基本調査 結果の要約 」
大和総研「介護離職の現状と課題」
WAMNET「仕事と介護の両立のための制度について」
WAMNET「仕事と介護の両立のための制度」
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
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