近年、介護疲れから悲劇的な結末となってしまったニュースを目にすることが増えてきました。
在宅介護を進めていく中で、介護を担う家族がストレスを抱えすぎないためには、どのような対策をしたらよいのでしょうか。
この記事では、在宅介護が辛くなる原因と、続けるための対策について、解説します。
仕事と介護の両立を図る
介護の基礎知識
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1. 在宅介護をめぐる現状

在宅介護が辛くなる理由を知るためには、現在の在宅介護の現状を知っておく必要があります。在宅介護をめぐる状況について、詳しく見ていきましょう。
要介護度が高いほど介護時間は多くなる
一般的に、要介護度が高いほど介護を必要とする度合いが増えるため、介護に費やす時間も長くなります。
令和5年度版高齢社会白書によると、1日のうち介護を要している時間は、「必要な時に手を貸す程度」が47.9%と最も多い一方で、「ほとんど終日」と回答した人が19.3%もいました。
要介護度別に見てみると、要支援1~要介護2までは「必要な時間に手を貸す程度」が最も多く、要介護3以上になると、「ほとんど終日」が最も多くなっています。この結果から、要介護度が高くなるほど、介護に必要とする時間も増えていくことがわかるでしょう。
介護者は女性が多く、悩みも多い
上述の高齢社会白書を見てみると、同居家族を介護している人の65%は女性となっています。介護や看護を理由に離職する人の割合を見てみても、離職者約9.9万人のうち7.5万人が女性であり、自宅で介護を担う女性の多くが離職していることがわかります。
介護者が抱える悩みについても考えてみましょう。介護者のうち、悩みやストレスを感じていると回答した女性は、男性の2倍以上に上ります。悩みの内容について見てみると、介護に関する悩みだけでなく、家族との人間関係や金銭面、自由になる時間がないなど、介護者の悩みは多岐にわたっていることがわかります。

(参照:令和4年度国民生活基礎調査)
子育てと介護のダブルケアで悩む人も増えている
近年、問題となっているのが、育児と介護のダブルケアの深刻化です。令和4年度就業構造基本調査によると、仕事をしながら介護を行っている人の割合は、58.0%。5年間で2.8%増加しており、仕事と介護を両立している人が年々増えてきていることがわかります。
では、育児と介護の両方を担う「ダブルケアラー」は、どれくらいいるのでしょうか。平成27年度の調査によると、全国に25.3万人のダブルケアラーがおり、女性は男性の2倍となっています。また、年齢層で見てみると、30~40代が約8割を占めています。
ダブルケアを行う人のうち、仕事をしている人は女性で半数程度、男性は9割に上っています。多くのダブルケアラーが、子育てと介護だけでなく、仕事にも従事しており、その負担は計り知れません。
調査によると、ダブルケアを負担に感じている人は、男女ともに5割程度となっていますが、ケアの対象となる家族が「要介護認定」を受けている場合は、約8割に増加します。介護が必要になる割合が高いほど、負担感も増していることがわかります。
また、介護の負担感について見てみると、「精神的負担」が約6割を占めており、ダブルケアラーの介護負担は心身ともに大きいと思われます。
2. 在宅介護はなぜ辛いのか?

在宅介護はなぜ辛くなるのでしょうか。在宅介護が辛くなる理由は、大きく分けて次の3つがあります。
身体的負担によるもの
介護者の力が弱い場合や、体格差が大きい、麻痺や拘縮などがある場合、介護する割合が増えて、身体的な負担は大きくなります。特に、家族間で介護を行っている場合は、専門知識が少ないためにコツがわからず、力任せになってしまい、体を傷めてしまうこともあります。実際に、腰を痛めている介護者が多く見られます。
また、認知症による症状や、本人が人に任せたくないといった性格で、介護拒否が見られている場合は、思わぬきっかけで暴力的になってしまうケースもあります。手を払ったりするだけでなく、暴れて手が付けられない場合や、叩かれたり嚙まれたりしてしまうと、けがをすることもあるでしょう。
さらに、夜のトイレ介助や昼夜逆転が見られている場合には、介護者が夜眠れずに睡眠不足に陥ってしまいます。睡眠が十分にとれないと、疲労がたまってしまうため、体調を崩す介護者も少なくありません。特に、仕事をして介護も担っている人の場合、より身体的負担は大きくなってしまいます。
精神的負担によるもの
介護をしていると、大変な思いをしているのに周りに辛さをわかってもらえなかったり、家族間で介護に対する考え方の違いがあったりして、精神的に辛くなってしまう人も少なくありません。
特に、認知症の方を介護している場合には、話が通じないことや、何度も何度も同じ話を繰り返されることに疲れてしまって、精神的に負担が大きくなってしまいがちです。一人で介護を担っている場合には、協力者や相談相手がおらず、一人でいろいろな思いや問題を抱え込んでしまう人もいます。
また、仕事をしながら介護をしている場合や、育児と介護の両方を担うダブルケアラーの場合には、自分の時間が取れないことが、ストレスとなることも多いでしょう。
経済的負担によるもの
介護をしていくうえで、切っても切り離せないのが、経済面です。本人の年金や蓄えが少ない場合、家族が介護費用を負担することになって、経済的負担が発生してしまいます。家族が介護費用を負担する場合には、家族間で誰がどれだけ負担するのかの問題で折り合いがつかないことや、費用負担に差がついてしまい、不公平感が生まれることもあります。
また、介護費用が少ないために、必要なサービスを十分に使えないケースや、施設に入所したくても費用が足りないケースなど、経済的負担によって介護が辛くなるケースは少なくありません。
さらに、介護をするために、仕事をセーブしたり、辞めざるを得なかったりする介護者もいます。介護離職してしまうと収入が減ってしまい、介護費用だけでなく自分たちの生活に影響が出てしまい、辛いと感じてしまう人も少なくありません。
3. 在宅介護が辛くなった時の対策

在宅介護が辛くなった時には、どうしたらよいのでしょうか。在宅介護が辛くなった時の対策を5つ紹介します。
相談相手を見つける
在宅介護が辛くならないようにするためには、相談できる相手を見つけましょう。
介護の悩みを相談する人や、話を聞いてくれる人がいると、精神的な負担が軽くなります。具体的には、ケアマネージャーや介護職員などに相談する、家族会や認知症カフェなどに参加するといった方法があります。家族会は、介護を担う家族が集う場所で、家族だからこそわかる思いを共有することができます。
認知症カフェとは、認知症の人やその家族が地域の人や専門職の人と情報を共有できる場所で、お互いのことを理解し合う場所となっています。2021年度の実態調査によると、全国で7,900以上のカフェが運用されています。
このように、同じ境遇にある人と話す場を活用することで、介護の辛さを共有でき、介護の負担を軽減できることでしょう。
サービスを調整する
介護サービスの量を調整してもらうのも、対策の一つです。ケアマネージャーに相談して、利用回数を増やしたり、ショートステイやレスパイト入院などの泊まりのサービスを利用してみたりしましょう。介護から離れる時間をとることで、体の負担だけでなく、精神的にもリフレッシュできるでしょう。
また、地域住民同士で助け合う有償ボランティアを活用する方法もあります。身体介護をお願いすることはできませんが、日常生活のちょっとした困りごとに対応してくれます。具体的には、草むしりやごみ捨て、掃除などを代行してくれます。このような活動は助け合い活動と呼ばれており、法律上に規定された制度や事業では対応しきれない課題を解決するために行われています。
お住いの地域で助け合い活動が行われているのであれば、利用を検討してみるのも良いかもしれません。
介護技術を学ぶ
身体的負担を減らす方法として有効なのが、介護技術を学ぶことです。介護者や家族向けの介護教室は、自治体や介護施設主催で開催されています。正しい介護技術や知識を身に付けると、安全に介護をすることができるようになり、身体的負担を軽減することができます。
また、介護教室では自分と同じように家族を介護している立場の人に出会う可能性も高く、相談相手が見つかることもあるでしょう。
経済的支援が受けられないか相談する
経済的な負担を抱えて辛い場合には、経済的支援が受けられないか、ケアマネージャーや役所などに相談してみましょう。具体的な経済的支援には、高額介護サービス費の申請や、高額医療・高額介護合算療養費制度、生活保護の申請などがあります。
- 高額介護サービス費
1か月に支払った利用者負担の合計が負担の上限を超えた時に申請することで、超えた分が払い戻される制度。 - 高額医療・高額介護合算療養費制度
1年間の医療保険と介護保険の自己負担額が高額となった場合に、自己負担額を軽減する制度。申請によって負担額の一部が払い戻される制度。 - 生活保護
生活に困窮している人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行う制度。お住いの自治体にある福祉事務所に申請し、認められれば保護が受けられる。
施設入所を検討する
自宅での介護が厳しくなってきて辛い時には、施設入所を検討してみましょう。
介護保険施設である介護老人保健施設(老健)や介護老人福祉施設(特養)、介護医療院の場合は、収入や要介護度によって費用負担が設定されており、利用者負担の軽減制度もあるため、経済的負担が軽くなるケースもあります。
また、専門的なケアが受けられることで、本人も安心して生活ができるようになります。家族にとっては、介護負担が軽減されるので、施設に入所したことで家族との関係がよくなることもあるでしょう。
▶ 介護老人保健施設(老健)とは?
▶ 介護老人福祉施設(特養)とは?
▶ 介護医療院とは?
まとめ :在宅介護を続けるためには「頑張りすぎない」ことが大切

在宅介護は、本人の希望や家族の義務感から、介護者が一人で抱え込んでしまい、疲弊するケースが少なくありません。介護者が倒れてしまわないよう、在宅介護では頑張りすぎないことが大事です。相談できる相手を見つけたり、介護サービスや行政サービスなどを積極的に活用したりして、周りの力をどんどん借りていきましょう。
マイナビあなたの介護では、電話やLINEで介護に関する相談ができます。
最適な施設探しから介護準備のお手続きのサポートまで幅広く対応します。
どんな些細なお悩みでも、お気軽にご相談ください。
参考URL
令和5年度版高齢社会白書|内閣府
ダブルケアラーの支援|WAMNET
サービスにかかる利用料|厚生労働省
生活保護制度|厚生労働省
高齢者家族介護教室|江東区
家族介護教室事業・家族介護者交流事業|広川町社会福祉協議会
令和4年就業構造基本調査 結果の要約|統計局
認知症カフェ|厚生労働省
助け合い活動(有償ボランティ)|郡山市社会福祉協議会
全国各地の福祉の実践事例(見る・わかる)|全国社会福祉協議会
高額介護サービス費|厚生労働省
介護保険の高額介護合算療養費制度とは|健康長寿ネット

北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO
菊地 雅洋
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。
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