日本人の平均寿命が右肩上がりで伸びている中、健康寿命という言葉が広く浸透してきています。健康寿命とは、健康上の問題によって日常生活に制限を受けることなく生活できる期間のことです。実際、何らかの病気がきっかけで介護が必要になるケースは少なくありません。
この記事では、高齢者に多い代表的な病気や、介護が必要になる主な原因、高齢者に多い病気の予防方法について解説します。
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日本人の平均寿命が右肩上がりで伸びている中、健康寿命という言葉が広く浸透してきています。健康寿命とは、健康上の問題によって日常生活に制限を受けることなく生活できる期間のことです。実際、何らかの病気がきっかけで介護が必要になるケースは少なくありません。
この記事では、高齢者に多い代表的な病気や、介護が必要になる主な原因、高齢者に多い病気の予防方法について解説します。
高齢者に多い病気について解説する前に、高齢者の定義 について整理しておきましょう。
WHOの定義によれば、高齢者とは65歳以上の人のことです。日本では65歳以上~75歳未満を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と分類しています。
高齢者になると、臓器の老化や筋力の低下、活動量の減少など、さまざまな要因が重なることで病気を発症しやすくなります。高齢者の主な死因となる病気は下記の通りです。
高齢者の主な死因となる病気 |
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第1位:悪性新生物(がん) |
また、加齢に伴い全身の臓器機能が低下し、複数の疾患を同時に発症する人も少なくありません。複数の要因による生理機能の低下は「老年症候群 」と呼ばれています。主な死因となる病気以外にも、認知症や糖尿病、関節疾患、パーキンソン病、骨粗しょう症などといった病気や症状があります。 若い頃に比べると、こうした病気にかかるリスクが高まることを理解しておいてください。
高齢者が要介護状態になる主な原因としては、認知症や脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱(老衰)、骨折・転倒、関節疾患などが挙げられます。
原因別の割合は下図のとおりです。
65歳以上の要介護者等の性別に見た介護が必要となった主な原因
※内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」
※四捨五入の関係で、足し合わせても100.0%にならない場合があります。
介護が必要になる理由には、男女間で若干の差が見られます。男性の高齢者で最も割合が高いのは脳血管疾患(脳卒中)ですが、女性の高齢者は認知症の割合が最も高くなっているのが特徴的です 。
ここでは、総合的に見た場合に、要介護になる主な原因を5つ紹介します。
高齢者に介護が必要になる原因の第1位は認知症です。2022年時点で認知症の患者数は約443万人であり、2030年には約523万人に達するといわれています(※)。
認知症の主な症状は、認知機能の低下です。これにより、日常生活にさまざまな支障が生じ、結果として介護が必要になるケースが多く見られます。
認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2つですがあります。
中核症状とは、脳の細胞が死んだり、脳の働きが低下したりすることによって起こる症状のこと。具体的には、記憶障害や見当識障害(時間や場所、人がわからなくなる)、実行機能障害(物事を計画的に行えなくなる)、言語障害といった症状があります。
周辺症状とは、中核症状に加え、環境や身体要因などによって引き起こされる症状のことです。具体的な症状としては、妄想や抑うつ、徘徊、暴力・暴言などがあります。
どの症状が強く現れ、どのような経過をたどるかは人によって異なるため、個別のケアプランが欠かせません。
現在、認知症に決定的な治療法は存在しません。薬物療法やリハビリテーションが行われますが、これらは完治を目的とした治療ではなく、進行を遅らせる対症療法です。
また、認知症と間違いやすい症状に「老人性うつ 」があります。老人性うつは、65歳以上の高齢者が発症するうつ病で、認知症と似た症状が見られることがあります。異変を感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。
※国立大学法人 九州大学「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」
高齢者に介護が必要になる原因として、2番目に多いのは脳血管疾患(脳卒中)です。2020年時点で脳血管疾患の患者数は約174万人とされています(※)。
脳血管疾患の症状として、脳の血管が詰まることによる脳梗塞や、脳の血管が破れて出血する脳出血・くも膜下出血などが挙げられます。これにより、体の特定部位に起こる麻痺やしびれ、言語障害、視覚障害、立てない・まっすぐ歩けないといった問題が現れることが少なくありません。
脳血管疾患の治療法としては、症状や発症時間によって異なりますが、血栓を溶かす薬物の投与や外科手術があげられます。また、治療後も再発防止のために服薬や生活習慣の改善が欠かせません。
※厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」
3番目に多い原因は、高齢による衰弱(老衰)です。あるひとつ特定の病気が原因で介護が必要になるのではなく、加齢に伴う潜在的加齢に伴うな身体機能の低下や疾患によって介護が必要になるケースです。65歳以上の要介護の原因のうち、約13%が高齢による衰弱によるものとされています(※)。
高齢による衰弱の主な症状は、筋力の低下や歩行速度の低下、体重の減少、活動量の減少などです。腰やひざの痛みが原因で活動量が減って筋肉が減少し、さらに身体の衰弱が進行することもあります。また、活動量が減少して食欲も低下し、さらに体力が落ちるという悪循環に陥ることも少なくありません。こうしたさまざまな要因が重なり合い、介護が必要な状態に至ることが多くなっています。
※内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」
骨折や転倒も、高齢者に介護が必要になる原因のひとつです。高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は2022年時点で1万809人にのぼり、これは交通事故による死亡者数の約5倍に相当します(※)。高齢者の骨折・転倒事故の主な原因には、加齢による身体機能の低下や、病気・薬の影響、運動不足による運動機能や感覚機能の低下などがあります。
日常生活の中で転倒リスクのある場所は少なくありません。自宅や外出先で転倒リスクのある場所や物には、下記が挙げられます。
自宅において転倒リスクがある場所や物の例 |
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外出先で転倒リスクがある場所の例 |
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高齢者は一度転倒して怪我をすると、若い頃に比べて回復に時間がかかったり、重傷を負ったりすることが少なくありません。自宅では廊下や階段に手すりを設置する、床に物を置かないようにするなど、転倒防止のための対策が重要です。
※厚生労働省「人口動態調査 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数・百分率」
高齢者が介護を必要とする原因の中には、関節疾患も多く見られます。関節疾患は、関節の変形や軟骨の摩耗により可動範囲が制限されたり、痛みが生じたりすることで、身体を動かしづらくなる症状です。特に体重がかかりやすい膝関節や股関節は関節疾患を発症しやすく、日常生活に支障をきたすことがあります。
関節疾患の治療法 には、手術を行わない「保存療法」と手術を行う「手術療法」があります。具体的な治療内容は下記のとおりです。
保存療法 |
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手術療法 |
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関節疾患の初期には、体を動かした際に痛みを感じる程度ですが、進行すると痛みが強くなり、関節の変形が外観にも現れてきます。重度になると、外観上の変形が目立つようになります。歩行が困難になるだけでなく、安静時にも痛みが引かなくなり、睡眠に影響を与えるケースも少なくありません。
高齢者に多い病気を予防し、できる限り要介護状態を防ぐためには、どのようなことを意識すべきでしょうか。主な予防方法を紹介します。
高齢者に多い病気を予防する方法のひとつは、定期的に健康診断を受けることです。高齢になると免疫力や自然治癒力が低下し、病気が進行してから回復するのは難しくなります。早期に病気の兆候を発見できれば、症状が重くなるのを防げる可能性があります。
痛みや違和感など、身体に明らかな異変を感じたときには、すでに治療が困難な段階になっていることも少なくありません。現時点で健康に問題がないと感じていても、定期的な健康診断を受けることが大切です。
日常的に健康的な食生活を心掛けることも、病気を予防する上で重要なポイントです。糖質や脂質が多い食事を続けると、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。お菓子やジュース、ジャンクフードなど糖質や脂質を多く含む食品は控えるのが無難です。その代わりに、野菜や果物、魚といった食材を意識的に取り入れてみてください。
高齢者に多い病気を予防するためには、適度な運動を生活習慣に取り入れていくことも大切です。日常的に運動をすることは、心疾患やがん、高血圧、肥満、筋力低下などのリスクを下げます。無理のない範囲で、毎日少しずつ運動をする時間を確保しましょう。
ただし、過度な運動や筋力トレーニングは身体に負担をかけるおそれがあります。特に、これまで運動習慣のなかった人が、急にジョギングやジムでの筋力トレーニングをするといったことは避けたほうが無難です。日々の歩数を増やしたり、移動時に一駅分歩いたりといった方法で、無理なく運動を習慣化することを心掛けてください。
飲酒や喫煙といった生活習慣を見直すことも、高齢者に多い病気を予防する上で重要です。過度の飲酒や喫煙は、さまざまな病気のリスクを上げることが明らかになっています。
しかし、アルコールやニコチンには依存性があるため、急に生活習慣を変えることは難しいと感じるかもしれません。禁酒や禁煙を自力で実行するのが難しい場合は、医療機関に相談するのもひとつの方法です。
高齢者に多い病気にはさまざまな種類があり、特に認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱(老衰)、骨折・転倒、関節疾患などは要介護の原因となりやすい疾患・症状です。
要介護状態になるのをできるだけ防ぐためには、高齢者に多い病気の傾向を知り、予防策を講じる必要があります。病気にかかってから対応策を考えるのではなく、病気の予防方法を知ったり、生活習慣を見直したりすることが大切です。
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参考URL
内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」
厚生労働省「令和5年版高齢社会白書(全体版)」
厚生労働省「人口動態調査 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数・百分率」
国立大学法人 九州大学「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」
厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」
健康長寿ネット「老年症候群とは」
健康長寿ネット「認知症の中核症状」
健康長寿ネット「認知症の周辺症状」
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
菅原クリニック 東京脳ドック 院長
伊藤 たえ
菅原クリニック 東京脳ドック 院長
伊藤 たえ
2004年医師免許取得、脳神経外科学会専門医、脳卒中学会専門医、脳ドック学会認定医
2004年医師免許取得、脳神経外科学会専門医、脳卒中学会専門医、脳ドック学会認定医
UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
医師、医学博士。スポーツ医学を専門とし研究・臨床を行う。2021年よりアメリカの大学にて研究に従事。
医師、医学博士。スポーツ医学を専門とし研究・臨床を行う。2021年よりアメリカの大学にて研究に従事。
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