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第5回 【専門家監修】介護による腰痛を防ぐには?福祉用具の活用と正しい介助方法を紹介

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介護に携わっている方のなかには、腰痛に悩んでいる方や、腰痛にならないための方法を知りたいと思っている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、介護による腰痛を防ぐコツや福祉用具の活用方法、正しい介助方法を紹介します。

介護による腰痛の主な原因とは

ソファで痛む腰を抑える女性

介護による腰痛の主な原因としては、以下のことが考えられます。

  • 前傾姿勢や腰のひねりなど腰に負担のかかる姿勢で介護をしている
  • 腕の力に頼りながら介護をしている
  • 介護をする場所が狭い、滑りやすい(介護に適した環境が整っていない)

上記のような状況では、腰に負担が掛かりすぎてしまいます。介護による腰痛を予防するためには、現状の介護を振り返って改善していくことが大切です。

介護による腰痛を防ぐ7つのポイント

起き上がりの介助をする女性

介護によって引き起こされる腰痛は、以下の7つのポイントを押さえることで予防・軽減できます。

①介護するときの姿勢を改善する

介護中、姿勢を低くしたいときは、前傾姿勢になるのではなく、膝を曲げて腰を落とし、重心を低くすることで腰への負担が減らせます。また、要介護者の正面に位置取り、腰をひねる動作をしないようにすることも大切です。

特に、寝たきりの要介護者の場合、着替えやおむつ交換を行うときには、前傾姿勢での介護が10~20分にも及ぶことがあり、腰への負担が大きくなりやすいです。

ベッドの高さを上げたり、ベッドの背上げ機能を利用したりして、無理な姿勢での介護をできるだけ減らすことで腰痛予防になります。
 

②ボディメカニクスを意識して介護を行う

「ボディメカニクス」とは、人の動作に関わる骨や筋肉、関節などの仕組みを上手に利用することで、身体への負担を軽くする方法です。例えば、介護をしているときに手や腕などの小さな筋肉だけに頼らず、脚や腰、背中などの大きな筋肉を意識的に使うことで、特定の部位に負担が掛かりにくくなり、腰への負担軽減につながります。

ボディメカニクスを意識し、上手く活用することで、少ない力で介護が行えるだけでなく、要介護者の身体的な負担も減らせます。

ボディメカニクスについて詳しく知りたい方は、書籍や動画で理解を深めてみるのもおすすめです。
  

③要介護者の身体機能を活用する

要介護者の残存機能(まだ使える身体の機能)を、できるだけ活用できるよう働きかけることも重要です。

例えば、要介護者がベッドから起きて端に腰掛けた状態(端座位)になる場面では、「ベッドの柵を持ちましょう」といった声かけをしながら、自分で動いてもらえるよう促します。こうすることで、介護者は必要最小限のサポートで済み、身体的な負担も軽くなります。

このように、日常のなかで身体機能を活用できる場面を増やしたり、要介護者が自分でできることは積極的に行ってもらうことで、筋力や身体機能の維持につながります。自立した生活をより長く続けられるようになることで、生活の質(QOL)向上も期待できます。
 

④介護しやすい環境を整える

介護中に十分なスペースを確保できるよう、自宅の環境を整えることも大切です。介護するスペースが狭いと腰に負担が掛かる体勢で介護することになり、腰痛を引き起こしやすくなります。

例えば、ベッド上でおむつ交換や体位変換などの介助が必要な場合は、ベッドの左右どちらからでも介助できるようにスペースを確保しておくととよいでしょう。

また、ベッドから車椅子、車椅子からベッドの移乗が必要な場合、ベッド横に車椅子を設置したり、車椅子の向きを変えたりするスペースを確保しておくとよいでしょう。

要介護者の身体状況や部屋の導線を考慮して、部屋のレイアウトを検討することが重要です。

その他にも、介護しやすい服装・滑りにくい靴の着用もポイントです。また、照明を明るくすることで、足元や障害物を確認しやすくなり、滑って腰をひねるリスクを回避できます。
 

⑤休息やリフレッシュの時間をとる

身体に疲れが溜まっていると、筋肉も凝り固まりやすくなり、腰痛の一因になります。十分な休息や睡眠をとることは、身体の疲労回復に効果的です。

とはいえ、親の介護度によっては、夜間に排せつ介助が必要、何度も起こされるなど、介護者が十分な睡眠を取ることが難しいケースもあるでしょう。まとまって睡眠を取ることが難しく疲れが溜まっていると感じたら、要介護者が1日~数日間施設に宿泊できる「ショートステイ(短期入所生活介護)」をはじめとした介護サービスを活用する方法もあります。

また、ストレスを溜めないことも意識したいポイントです。介護の不安や緊張から、精神的にストレスを感じたら、自分に合った方法で気分転換してみましょう。しっかり身体を休め、心も身体もリフレッシュすることが大切です。
  

⑥ストレッチや腰痛予防体操で身体をほぐす

筋肉を伸ばすストレッチや腰痛予防体操で身体をほぐすことも効果的です。急に身体を動かすのではなく、筋肉を伸ばすことを意識してゆっくり静かに行いましょう。

ストレッチや腰痛予防体操は血行を促進し、腰痛予防に効果があるだけでなく、リラクゼーションや疲労回復効果も期待できます。
  

⑦福祉用具を導入してみる

「抱え上げる」「持ち上げる」「引きずる」などの力に頼った介護は、介護者の身体に大きな負担がかかるだけでなく、要介護者の身体に皮膚めくれや褥瘡(床ずれ)、拘縮などを引き起こすリスクもあります。

介護による腰痛を予防するために、以下のような福祉用具の導入を検討するのもおすすめです。

スライディングシート

  • 滑りやすい素材でできたシート
  • 摩擦を減らし、介護者の負担を軽くできる
  • 要介護者の皮膚への負担も少ない

【利用シーン】寝返りや体位の変更、移乗 など

スライディングボード

  • 板状の補助具
  • ベッドと車いすなどの間に橋渡しするように使用
  • 要介護者を持ち上げずにスライド移動ができる

【利用シーン】ベッドと車いす間の移乗 など

リフト

  • 要介護者を持ち上げて移動・移乗させる機器(電動もしくは手動)
  • 寝たきりの場合や、自力で体を支えられない場合でも安全に移乗でき、介護者の負担が大幅に軽減される

【利用シーン】ベッドと車いす間の移乗、浴槽への移動 など

福祉用具を活用することで、介護者の負担軽減はもちろん、安全性の向上や、時間短縮も可能です。

福祉用具の種類や、導入する方法について、詳しくは次の章で解説します。

 

福祉用具を導入する方法

車いすとベッドに座る高齢者男性

福祉用具を活用したい場合、介護保険サービスの「福祉用具貸与」や「特定福祉用具販売」を利用する選択肢があります。それぞれについて見ていきましょう。

「福祉用具貸与」は福祉用具をレンタルできるサービス

「福祉用具貸与」は、要介護認定・要支援認定を受けている方が、1割の自己負担額(※)で指定された福祉用具(13品目)をレンタルできるサービスです。(※収入状況によっては自己負担額が1割以上になることもあります)

特に、以下の福祉用具を活用することで、介護者の腰への負担を軽減できるでしょう。

  • 手すり
  • 車いす
  • 歩行器
  • 歩行補助つえ
  • 特殊寝台
  • 体位変換器
  • 移動用リフト

手すり・車いす・歩行器・歩行補助つえなどの歩行をサポートする福祉用具は、要介護者の残存機能を活かす働きをします。また、特殊寝台、体位変換器、移動用リフトなどを導入することで、力任せに抱えたり持ち上げたりせずに介護しやすくなるため、介護者の腰への負担軽減に効果的です。
 

「特定福祉用具販売」は福祉用具を購入できるサービス

「特定福祉用具販売」は、要介護認定・要支援認定を受けている方が、入浴や排せつ時に使用する福祉用具(福祉用具貸与に含まれない用具)を1割の自己負担額(※)で購入できるサービスです。

シャワーチェアや浴槽台などの入浴補助用具を活用することで、介護者は楽な姿勢で介助できるため、腰への負担が軽減できます。移動用リフトの吊り具部品(リフトは含まない)も、特定福祉用具販売に含まれます。脱衣所から浴室・浴槽への移動時、移動用リフトを活用することで、抱きかかえる動作の負担が減り、介護者の腰痛予防につながります

(※)収入状況によっては自己負担額が1割以上になることもあります

「特定福祉用具販売」を利用する流れ

「特定福祉用具販売」のサービスを利用するためには、特定福祉用具販売または特定介護予防福祉用具販売に指定された事業者から購入する必要があります。

ほとんどの場合、購入時に一旦商品の費用を全額負担する必要がありますが、後から介護保険を使ってかかった費用の9割(※)が戻ってくる「償還払い方式」という仕組みになっています。

なお、住んでいる地域や利用する事業所によっては、「受領委任払い方式」という方法も選択可能です。この方法を使うと、最初に全額支払う必要がなく、自己負担分(原則1割。所得が多い方は2〜3割)だけ支払えば良くなります。残りの費用は自治体が販売事業所に直接支払ってくれます。ただし、この制度を使っても年度内に10万円を超える分の費用は自己負担になるため、あらかじめ金額を確認しておくことが大切です。

(※)所得が多い方の場合は、8割~7割となることもあります

  

まとめ:介護では福祉用具も活用しながら腰痛を予防しましょう

身体を伸ばす白い服を着た女性

介護による腰痛を予防するためには、介護者自身が腰を痛めないコツや福祉用具の活用方法、正しい介助方法を知ることが大切です。また、適切な福祉用具を活用することで、要介護者・介護者ともに身体的な負担軽減につながり、腰痛を予防できます。ストレッチや、腰痛予防体操を行うのも効果的です。

また、日頃から休息や睡眠をしっかりとる、ストレスを溜めない、といったポイントも意識しながら介護してみてはいかがでしょうか。

介護に関するお悩みがあるときは「マイナビあなたの介護」に相談するのがいいでしょう。LINEや電話で手軽に相談でき、介護の専門家があなたのお悩みに沿ったご提案をしてくれます。

まずは会員登録をし、相談してみてはいかがでしょうか。


参考
「介護作業者の腰痛予防対策チェックリスト」|厚生労働省
福祉用具貸与|厚生労働省
特定福祉用具販売|厚生労働省

監修

北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO

菊地 雅洋

北海道介護福祉道場あかい花・代表/あかい花介護オフィス CEO

菊地 雅洋

社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。

社福の総合施設長から独立後、現在はフリーランスとして介護事業者の顧問指導・講演講師などを行っている。

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